92年、脳死臨調の答申により、
多臓器ネットワークの整備が進められる。
94年、臓器移植法が成立。しかし、
臓器提供者(ドナー)の不足は、提供者の家族による移植医師の告訴事件などを招き、移植医療が抱える問題の深刻さは、現在も解決されていない。
95年7月東京。犯罪都市の夜のしじまを、死の匂いに群がる営利集団
(闇の臓器売買屋)が蠢いていた。

手段を選ばぬ違法な捜査のやり口で悪徳刑事と噂される
沼田と、血気盛んな若い刑事、
戸坂。
深夜の救急病院裏に停めた車中に張り込む二人の刑事。病院の当直事務員の
安田は、暴走族仲間に置き去りにされた瀕死の少年を車に積み込み連れ去る。後を追い、倉庫街の外れの
闇の臓器処理場へ辿り着いた沼田は、追跡中にはぐれた戸坂を背後から殴り倒し、まんまと臓器売買の一味に潜り込む。冷気漂う処理場内。顔をマスクで覆った
びっこの「先生」が、瀕死の少年の身体に躊躇なくメスを入れ臓器を取り出す。黙殺する沼田。そこへ拉致から逃れ配送員になりすました戸坂が現われ、眼前の光景に逆上する。一味に加担し、戸坂を押さえ込む沼田もまた、
片目の女にその正体を見破られ、「先生」によって首にクスリを打ち込まれる。沼田の撃った銃弾が配線をショートさせ、水浸しの処理場内は、感電の危険にさらされる。切れたコードの先が解剖台の上に垂れ、通電した少年の身体が反り返る。床に落ちた臓器を拾い「先生」に迫り寄る戸坂。辺りは火炎に包まれ、朦朧とする意識の中、這いずって逃げる沼田の耳に戸坂の悲鳴が聞こえる。
数日後、都内の某私立女子高校に片足を引きずる
佐伯という
生物教師の姿があった。彼の周囲には失踪した女生徒との噂が囁かれ、生活指導の女教師に目を付けられていた。

同じ頃、謹慎処分を受けた
沼田は、あの肉体処理場を再び訪れ、生皮を剥がれた戸坂の幻影に怯える。そこに戸坂の双子の弟、
慎二が沼田の上司、
高木と共に現われ、捜査から外された沼田は高木らに追い払われる。その頃、
佐伯が蝶の標本作りに没頭している生物準備室の奥では、蚊帳に覆われた昆虫の飼育室の中で、手足を切断された
戸坂が木箱に押し込まれ生きていた。そして新たな犠牲となった女子高生が、木箱の戸坂の前で、佐伯によって腹を捌かれ犯される。
謹慎命令を無視して聞き込み捜査を続ける
沼田。その留守宅では沼田に恨みを抱くかつての相棒らが彼の妻を倫辱する。なにも知らぬ沼田は聞き込みの末、
金城組という土建屋の寮に潜り込み、片目の少女とびっこの弟を育てた
中西という初老の男に接触する。そして思いもよらず、その寮に潜んでいた運び屋の
安田と出くわす。
夏休みの人気のない
女子校。
佐伯は姉である片目の女
ヨウコによって飼育室へ閉じ込められ、クスリの禁断症状に喘いでいた。錯乱する意識の中に甦る少年の頃の虐待の記憶。性器を噛まれ泣き叫ぶ少年佐伯、弟を庇って継母ともみ合い左目をえぐられる姉ヨウコ。そして、真夏の森の中に寄り添う血塗れの幼い二人。傍らに転がる腹を裂かれた継母の死骸。死臭にたかる昆虫、あらわになった内臓に群れる蝶の記憶。佐伯の身体の治ることのない古い傷口から滴る膿汁。それを抑えるためのクスリによる妄想によって、佐伯は性衝動を殺戮行為としてしか果たせない男となっていた。そして、激しい憎悪と軽蔑を自分に向ける戸坂をもまたクスリ漬けにし、変容していく肉体と精神を観察していた。
双子の兄、戸坂刑事の殉職扱いに反発し、単独で事件を追う
慎二は、臓器売買屋の黒幕、
金城土建のビルの前で張り込みを続けていたが、事故を装った金城組のダンプに挟まれ、殺されかける。警察病院を抜け出した慎二は沼田宅を訪れ、異臭漂う荒んだ室内と、部屋の中に小便を垂れる女房に驚く。そして手錠を掛けられ風呂桶に入れられた安田を発見する。泣き叫ぶ女房の声が、路上で飲んだくれる
沼田の脳裏をよぎる。
安田を後部座席に乗せ、金城土建ビルの玄関に車を乗り着けた
慎二の前に、片目の
ヨウコが現われ、バイクの後ろに飛び乗り逃げ去る。追跡のさなか、怯えて騒ぐ安田を手錠姿のまま車から落とす慎二。寂れた飲み屋街の
Barの前に停められたバイクを見つけ飛び込むと、そこには
金城組の連中が待ち構えていた。
同じ頃、
警察署内では、女房を犯した連中を便所で血祭りに挙げ、金城組とつるむ上司の高木を締め上げた
沼田が、拉致されて生き延びている戸坂の情報を得、佐伯のいる女子高校へと向かう。
一方、逃げた安田を追って長い高架下に入り込んだ
ヨウコは、金城組の裏切りに会い、仲間を殺される。とどめの日本刀がヨウコに振り降ろされる寸前、リンチから逃れた
慎二の車が現われ、金城組の男をひき殺す。
生活指導の
女教師に案内され、高木と共に
生物準備室に踏み込んだ
沼田だったが、すでに佐伯の養父
中西が戸坂を運び出し、もぬけの空となっていた。女教師の振る舞いを怪しんだ沼田が、ひこかに後をつけると、静まり返った校舎の隅の
生活指導室の中にじっと身を竦めている
佐伯がいた。
「先生」の顔を見ていない沼田が様子を窺うその眼前で、佐伯の中の歪んだ性衝動を兆発する女教師の腹は裂かれ、沼田にその正体を見せる。扉を蹴破り、室内へ飛び込んだ沼田は、女教師の腹に突き立つナイフを抜き取り、ニヤつく佐伯の足を突く。復讐するかの様に苦しむ佐伯を痛め付け、戸坂の居所を聞き出そうとする沼田。すると、死んだと見えていた女教師が呻き声をあげ、沼田に絡みついてくる。驚き、ナイフを取り落とす沼田。女に取り込まれるように茫然として窓際にもたれかかる。
ヨウコに案内させ生物準備室に辿りついた
慎二は、もぬけの空となった木箱を見て怒り狂い、ヨウコに詰め寄る。手傷を負って瀕死のヨウコだったが、隠し持っていた
短銃で、慎二を抑え込み、残忍に木箱の戸坂の様子を語って聞かした後、
撃ち殺す。
聞こえてくる
銃声に気をとられ、女にしがみ付かれたまま、
二回の窓から落下する
沼田。地面に叩き付けられるが、下敷きになった女の為に一命を取り留める。
生物準備室を血の海にして転がっている
ヨウコ。そこに、養父
中西が現われる。金城組にヨウコらから手を引かせようとして深手を負っている中西だったが、ヨウコに罪を償うよう説得する。聞く耳を持たぬヨウコは、養父中西に向けて短銃の引き金を引くが、空撃ちし、中西に銃を掴まれる。現われた
佐伯に刺された中西は、二人を殺すことを決意するが、逆に二人によって惨殺される。
いつかのあの真夏の森のように、血の海の中で抱き合う瀕死の二人。
翌朝。
警察病院の
地下病棟への階段を、這いずるように降りていく傷だらけの
沼田。ニヤつく高木に案内され入った隔離病棟の病室には、ブヨブヨの
青虫のような風体に変わり果てた
戸坂が横たわっていた。高木を追い払い二人きりとなった沼田がベッドの枕元へ近づくと、意識不明のはずの戸坂がかすかに口を利く。
「何故だ、何故、俺がこんな・・、なんでお前じゃない・・・」驚く沼田を戸坂の目が憎悪を込めて見据えていた。慄然と凍り付く沼田、全身を悪寒に震わせるのだった。

